平成30年度の卒業研究発表会が、平成31年2月4日(月)、2月5日(火)、2月6日(水)の3日間にわたって、日下記念マルチメディア館 1階メディアホールにて行われました。
藤本ゼミの「災害から生き延びた「命」を守るために」を発表した横川英美里さん、「ウルトラマンシリーズにおける怪獣の特徴とストーリーの変化」を発表した三木あかねさん、尾関ゼミの「プログラミングが学べるロールプレイングゲームの試作」を発表した長澤玲佳さんに卒業研究発表を終えて、その想いを語っていただきました。

藤本ゼミ

災害から生き延びた
「命」を守るために
〜インフォグラフィック動画を用いた
 スフィア基準の啓発〜

横川 英美里さん

卒業論文要旨

避難所には様々な問題がある。そこで、避難所の環境を変えるのに参考になる『スフィア基準』を分かりやすく伝えるための数値データの視覚化アニメーションを制作した。ターゲットを大学生とし、災害を人ごとにするのではなく、そこに暮らす被災者を支援できるように意識改革を呼び掛ける。この基準は、自身が被災した場合、ボランティア活動をする場合、避難所運営する場合に役に立つ。一人でも多くの人にスフィア基準を知ってもらい、一緒に未来社会の安全・安心を創っていきたい。

- 「災害から生き延びた「命」を守るために」というテーマを選んだ理由は何でしょうか?

昨年の大阪府北部地震や西日本豪雨では、家の物が壊れてしまったり雨漏りしたりして、私自身「避難所生活」というものをすごく身近に感じました。結局避難はしませんでしたが、テレビ番組でも避難者のニュースが流れてくる中で「日本の避難所はアフリカより(質が)悪い」といったニュースを聞き、そのとき「もし自分の避難先がそういう環境だったら嫌だな」、「環境改善のために、自分に出来ることがあるなら取り組みたい」と思いました。
そこで調べていくと「スフィア基準」というものが出てきました。私だけでなく、多くの人がこの基準を知っていくことで環境が改善していくのではないかと思い、この研究テーマを選びました。

- 「スフィア基準」について詳しく教えてください

「スフィア基準」は避難所の質の向上を実施している国際基準です。「人が人間らしく生活できるにはどうしたらいいのか」といった基準が書かれています。動画で発表したように様々な数値も定められていますが、それだけに注目するのではなく例えば避難所で、男性用トイレが多く女性用トイレが少ない場合でも、すぐに女性用トイレを増やすのは物理的に難しい。なので男性用トイレを一時的に開放して女性も使える環境にし、柔軟に数を変えていく……といった感じに、「色んなアイディアで解決していくことが大事」ということがたくさん書いている基準だと考えています。

- 今回の発表にあたり横川さんは「動画」を制作されていました。動画で説明しようと思った理由を教えてください

防災の啓発行動として最初に思いつくのは「避難訓練」だと思います。しかし避難訓練は多分ほとんどの大学でしないのです。国もパンフレットを配ったりして防災のアピールはしていますが伝わってない。その現状を踏まえて、同じことをしても意味がないと思いました。
そこで現代の若者はSNSや動画を見る機会が多いので、自分の動画制作スキルを活かしたいと思い、動画という発表方法を選びました。

- 動画制作で苦労された点・難しかった点は何でしょうか?

今回の動画制作にあたりAdobeのAfterEffectsというソフトを使用したのですが、ソフトの名前は知っているものの、学校でも個人でも使用したことがありませんでした。大学生活の中で様々な編集ソフトを触ってきて、AfterEffectsだけ触ったことないのはちょっと嫌だなと思い、どうせだったら、あまり使い慣れてないソフトを1から勉強して何か作品ができないか、と考えました。
一番苦労したことは、研究途中で災害の情報が更新されていくことです。なので「ここまで調べたらいいや」っていうところがないところが苦労しました。日が経つ毎に状況や数値・データ等も変わってしまう。今回の発表も、現時点の最新情報を収集して使用しました。

- 動画制作は一人で行なったのですか?

先生には発表内容に対して「ここを直した方がいいよ」という指摘はいただきました。動画制作に関しては自分で調べて、買った本にも付箋を貼りまくって、できそうなことを取り入れて作りました。

- 制作時間はどれぐらいかかりましたか?

大阪府北部地震や西日本豪雨を経験する前から「何か動画を作りたいな」とは思っていましたので1年ぐらいです。本を読んだり、AfterEffectsのネット講座もあったので、それを見たりして勉強しました。

藤本ゼミ

ウルトラマンシリーズにおける
怪獣の特徴とストーリーの変化

三木 あかねさん

卒業論文要旨

1966年〜2018年にわたってのウルトラマンシリーズに登場する怪獣達は、どのような特徴があり変化してきているのかを調査した。昭和は1話完結が多く、怪獣そのものがボスで目的やストーリーが描かれている。しかし最近では怪獣はいわば手段で、バックに別のボスがいるシリーズ型に変化している。よって、怪獣自体にはストーリーや特徴が無くなってしまった。そんな中2009年に登場した怪獣を操る悪のウルトラマン「ウルトラマンベリアル」の存在は、ウルトラマンシリーズの敵において、革命的な存在であることが分かった。

- 「ウルトラマンシリーズにおける怪獣の特徴とストーリーの変化」というテーマを選んだ理由は何でしょうか?

武庫川女子大学の情報メディア学科は、学生の個性を大事にしてくれて、自分がやりたいことをやらせてもらえるんです。そこで卒業研究をするにあたり、「こんなに個性を大事にしてくれる場所なんだから誰とも被りたくない」と思いました。誰とも被ってない自分の好きなものってなんだろうって考えたときに、小さい頃から見ていた「ウルトラマン」を思いつき、ウルトラマンの中でも「怪獣」が特に好きなので、「女子学生の中で一番怪獣を知る機会にしよう」と思いました。

- ウルトラマンを好きになったきっかけは?

小学校3年生のとき、朝学校へ行く前にテレビでウルトラマンが再放送されていて毎日見ていたら、だんだん好きになりました。毎週末は父親にヒーローショーへ連れて行ってもらうのを、中学校ぐらいまで続けていました。仮面ライダーや戦隊ヒーローも大好きです。

- 「『ウルトラマンベリアル(以下:ベリアル)』が革命的だった」と発表されていましたが、その理由は?

ウルトラマンの話の構成として、「怪獣が現れて倒す」という流れがずっと続いてきました。ベリアルが最初に登場したのは映画で、「ウルトラマンの星に一人だけ悪のウルトラマンが生まれてしまった」という話でした。
ファンとしては、「いつかベリアルが復活してウルトラマンと再び戦う」ということは想像できたのですが、映画が公開された約10年後に、「ベリアルの息子が正義のヒーローとして地球に来て、自分の父(ベリアル)と戦う」というストーリーが生まれました。それがファンとしてはすごく衝撃だったんです。犯罪者を父に持つ息子といった「人間ドラマ」が敵と味方の間で生まれ始めたのが、ベリアルの登場からなんですね。 他のウルトラマンも敵やボスと兄弟であったり、友達であったり、という何かしらの関係性を持っていく方向になったきっかけがベリアルでした。その点が革命的であったと思います。

- 主役の「ウルトラマン」自体に何か変化はありましたか?

ウルトラマンって毎年コンセプトは変わっているので、変化自体はしています。ただ今回怪獣を調べた中でわかってきたのは、ウルトラマンの「守るもの」が変わってきているということでした。
初期のウルトラマンは「美しい地球をおびやかす存在なんてダメだ」「地球を守る」という考え方でした。しかし怪獣が変化するにつれ、ウルトラマンも「子どもたちを守る」存在になったり、「日本の技術を守る」存在だったり、「弱い怪獣を守ってあげる」、今になると「自分の家族を守る」ためにお母さんが戦う、という風に「守るもの」が子どもたちが想像しやすい形になってきているということが、全体的な変化としてあるのだと思います。

- 「怪獣自体にストーリー性がなくなった」理由について教えてください

正確な理由はわからなかったのですが、ウルトラマンの話の構成として、一話完結のものが多かったんです。それが平成以降はシリーズで完結する物語が増えて、敵が組織化し始めました。ウルトラマンにおける怪獣は「壊したいから壊す」「食べたいから人を襲う」だったものが、怪獣の「ボス」が生まれたことで「ウルトラマンを倒すために、この怪獣を送り込んで困らせてやろう」になりました。怪獣そのものが「目的」だったのに、怪獣が「手段」になってしまったんです。
ボスとウルトラマンの関係もたくさん描くようになって、怪獣の発生理由が描かれなくなってしまいました。ボスとウルトラマンのストーリーを描き始めたからこそ怪獣は「手段」になってしまった、というのが調べて考えついた答えです。

- この調査をした上で難しかった点・苦労した点はありますか?

まず怪獣にインタビューができないんですよ、実際に存在しないので。その上、私がウルトラマン好きなのもあり、卒業研究にあたっても主観や自分の願望がどんどん入ってしまうところが苦労しました。先生に見ていただいたとき、「それは事実ではなく自分の意見だよ」ということを言われました。俯瞰的に見る、それを文字にするっていうのがすごく難しくて「これは自分の意見、これは事実」と分ける作業が余計に苦労しました。
あとは単純に千体いる怪獣を一体一体調べて、全部の映像を見ました。見てはナレーションや会話を打ち出して、怪獣ごとに情報を表にして…と、思ったより時間がかかりました。言語化するのがすごく難しかったです。

- 初期のウルトラマンから今の分まで全て見直されたんですか?

怪獣が何度も登場することで設定が上乗せされていく場合があり、バルタン星人なんて5~10回は出てきます。初代ウルトラマンとかで既に3回ぐらい出てきます。先生に「それは円谷プロダクションが後から付けた設定なのか、実際の描写なのかがわからない」と指摘され、実際に映像を見るしかないと思い、早送りしたり、重要なところだけ見たり、もちろん本も使ったりして調べて、言葉にしていきました。
知らない怪獣も多かったですし、自分の中に図鑑ができたみたいです。面白い自分の知識ができたと思います。

尾関ゼミ

プログラミングが学べる
ロールプレイングゲームの試作

長澤 玲佳さん

卒業論文要旨

2020年度から小学校・中学校・高校でプログラミング教育が順次必修化されることにより、プログラミングを学習する子どもたちが増える。本研究では、情報技術に興味のない子どもたちでも楽しく学習に取り組めるよう、プログラミングが学習できるロールプレイングゲーム(RPG)の開発に取り組んだ。学習ゲームに多くみられるクイズ形式や実践形式ではなく、RPGのシナリオや戦闘にプログラミングの学習要素を取り込んだ新しい形式のプログラミング学習ゲームを提案する。

- 「プログラミングが学べるロールプレイングゲームの試作」というテーマを選んだ理由は何でしょうか?

きっかけは「2020年から小学校でプログラミング教育が必修化される」ことを耳にしたことです。私は大学に入って初めてプログラミングを勉強しましたが、もともとパソコンが好きだったこともあって苦戦はしなかったです。でも周りの友達は「わからない」という人が多くて、「大学生でもわからないのに、小学生だともっとしんどいんじゃないかな」と思いました。少しでもプログラミングが楽しく勉強できる方法があればいいなと思い、子どもはゲームが好きなので、それと絡めたら面白いんじゃないかなという方向からテーマを決めました。また、調べていくうちに「女性IT人材が不足している」ということも知り、今回は子ども向けというだけではなく、女性もターゲットとして意識したゲームを作ってみよう… という形になりました。

- なぜRPGによる学習を提案しようと思ったのか教えてください

正直にいうと、私がRPGゲームを作ってみたかったというのがかなり大きいです。ゲームのジャンルとしてRPGは人気が高く、これまで調査されたアンケート結果などを調べても、RPGはいつも人気なので、プログラミング教育ゲームをRPGと絡めたら面白いと考えました。
また、既存の学習ゲームは〇×のクイズ形式やプログラミングだとパズル形式のものが多く、クイズ形式は一度やると飽きますし、パズル形式で突然「プログラミングやってみましょう」と言われても抵抗感があると思うので、面白くて人気のあるゲームジャンルと組み合わせることで改善できるんじゃないかなと思いました。

- もともとRPGはよくプレイされていたんですか?

RPGはもともと好きです。一般的に人気のあるRPGは「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」かなと思うのですが、私は初めてRPGを体験したポケモンの印象が強く、今回のゲーム制作で使用したRPGツクールMVというソフトウェアはポケモンと同じようなドット絵だったので親しみがありました。

- 具体的にどのようなRPGを作られたのか教えてください

テーマは「王道ファンタジーRPG」で、戦闘関係の部分ではコマンドを使って戦うオーソドックスなRPGで構成しています。大まかな流れは、ストーリー(イベントシーン)を見せた後、目的を果たすための探索パートがあります。探索が終わったら、そこで得たプログラミングの情報や知識を駆使して戦います。ここでは、戦闘で必要となるスキルの代わりに「プログラミングコードの断片」というもの使用します。それを繰り返して、プログラミングに触れながらクリアを目指してもらえるゲームになっています。

- 最終的にどうやったらクリアできるかという構想は決まっているのでしょうか?

今回の卒業研究発表でお見せしたのははすごく短いコマンドバトルでした。ただ、ゲームの世界観はそこに込められていて、敵を倒すのに必要とされるプログラミングスキルが少しずつ高くなっていく感じです。そして最終的に、それらのバグ(敵)を生み出している親玉的なキャラクターを倒すというストーリーです。それまで学習してきたプログラミング知識をすべて使って倒せたら楽しいと思います。

- ゲーム制作にあたって難しかった点・苦労された点は何ですか?

一番苦労したのは、ゲームの中心となっている戦闘システムです。「戦闘コマンドを順番に選んでいかないとダメ」という条件を課すことがなかなか上手くいかず、「選んでなくても次に進めてしまう」「選んでいるはずなのに選べていない」といったエラーが出てしまいました。あとは、ストーリーを作る上で、学習面を強く出さないでおこうと考えていのですが、どうしても授業を聞いてるようなお話になってしまうので、プログラミング学習というものをいかにしてゲームの世界観の一部として伝えていけるか… というところがすごく難しかったです。

- 長澤さんが作られたゲームが授業の一環として使われるとしたらいかがですか?

嬉しいですね。このゲームで「プログラミングってそんなに難しいものじゃないんだよ」ということを気軽に感じてもらいたいと思います。
小・中学校で必修化されるプログラミング教育では、既存の教科にプログラミングを組み合わせる形になるので、「総合的な学習の時間」や「技術」の授業に組み込まれるんじゃないかなと思っています。

- この卒業研究にあたって、自己評価はいかがでしょうか? 今後の改善点があれば教えてください

狙いとしてはすごく面白い試みだったんじゃないかと思います。ただ、自分のスケジュール管理が甘くて、卒業研究発表までにゲームが公開できるところまで完成しなかったことが一番の反省点です。今後は開発を進めるにしても、「この期間にどこまで完成させよう」ということをきちんと決めて進めていきたいです。その上で、ゲームは人に遊んでもらうものなので、実際にプレイした感想を聞きながら改善していくという形にできればと思います。